日米のイノベーションを促進: ホンダ-オハイオ州立大学パートナーシップ

ジル・ラッツ
ジル・A・トフト

ホンダ-オハイオ州立大学パートナーシップは、教員の研究、協働学習、産業におけるイノベーション、更に労働力開発を支援するためのイニシアチブとして注目されています。この協力関係は、2000年に成文化され、2015年に再確認された覚書(MOU)に基づいています。今回のケーススタディでは、これまでのパートナーシップの経緯、主要な取り組みやプロジェクトの概要、そしてオハイオ州の労働力とグローバルモビリティの発展にもたらされた利益を調査します。

パートナーシップの構築

本田技研工業株式会社(通称ホンダ)は、日本の多国籍企業であり、主に自動車、オートバイ、電力設備のメーカーとして知られています。1986年、ホンダは世界市場で競争力のある自立した自動車メーカーになるための戦略の一環として、オハイオ州イーストリバティに第2自動車工場と製品開発のためのR&Dセンターを設置することを検討しました1。ホンダとオハイオ州立大学とのパートナーシップは、1988年にオハイオ州立大学工学部が運営する交通研究センター(TRC)を含む州有地の購入が出発点でした。ホンダは工学部に600万ドルの基金を提供し、当社の輸送研究用の独立した実験場としてこの施設の運営を大学に委ね、運営による余剰資金を輸送研究や施設の改善に再投資し、工学部の他の基金に充当することにしました。 

2000年、Hondaとオハイオ州立大学は、研究、人材育成、地域開発を支援するパートナーシップを覚書で正式に締結しました。ホンダ-オハイオ州立大学パートナーシップによって、2008年にホンダ-オハイオ州立大学 モビリティ・イノベーション・エクスチェンジ(MIX)が設立され、複数の分野にまたがる共同研究開発を行うなど、大きな成果を上げています。

「ホンダは、研究、教育、アウトリーチにおいて重要なパートナーです。

当社は、工学分野の発展のために、教員や学生への投資を支えてきました。また、ホンダは6種の寄付講座に資金を提供し、大学への優秀な人材の採用に役立っています。

ホンダ-オハイオ州立大学パートナーシップは、工学の教育と教授陣の研究を支えています」

とデビッド・B・ウィリアムズ学部長(オハイオ州立大学工学部)は語っています。

2020年、ホンダ及びオハイオ州立大学)MIXには、メカトロニクス、力学、シミュレーション、交通安全学、材料工学など、幅広い研究分野の教員が参加しています(2013年、オハイオ州立大学)。 

その3年後、新しく就任したオハイオ州立大学工学部(COE)のデビッド・B・ウィリアムズ学部長は、ホンダとのパートナーシップを深めようと、大学のキャンパス内に共同研究センターを設立しました。その一つであり、2012年に立ち上がったドライビング・シミュレーション・ラボでは、ドライバーの行動や交通安全に影響を与える注意力不足などの要因を測定しています。 

その後、2014年には、先進的な製品や生産コンセプトの設計・製造のためのコンピュータ支援エンジニアリング技術の研究・応用を支援するため、ホンダはCOEでのシミュレーション・イノベーション・モデリング・センター(SIMセンター)の立ち上げを支援しました。


人と人とのつながりを深め、学生の体験をより良いものにするという目標を達成するために、ホンダの社員は、学生グループへの助言、ネットワーキングイベント、ゲスト講演、業界パネル、履歴書審査、ジョブシャドウイングなど、オハイオ州立大学の学生の指導にますます積極的な役割を果たしています。学生に、すでに業界で働いている人たちからキャリアについての理解を深めてもらい、次世代のエンジニア・リーダーとして活躍してもらっています。 

一例として、2018年には、ホンダとオハイオ州立大学のイノベーション戦略センター(CIS)の元学生・現役学生との話し合いにより、複数の分野の学生が、初期段階のアイデアをホンダの研究開発部門のスタートアッププロジェクトに発展させることを目標とし、10週間にわたるプログラム「OnRamp」が創設されました。ホンダは、COEのインダストリアル・オートメーション&インダストリアル・ロボティクス・ラボにも投資しており、学生にオートメーション、ロボティクス、プログラマブルロジックコントローラ(PLC)に関する実践的な教育も行っています。

「99Pは、研究者がアイデアを膨らませ、これまで試したことのないことに挑戦する場を提供しています。そして学生は、ホンダの研究開発チームから実社会での専門知識を得ることができます。双方にメリットがあるのです」とオハイオ州立大学研究担当のモーリー・ストーンの上級副学部長は語っています。

また、2019年にホンダとオハイオ州立大学が創設した「99Pラボ」では、顧客嗜好の理解を深め、データサイエンスやビジネスの改善を通じて、自動車産業の従来の工学にとどまらない共同シードプロジェクトを支援しています。また、ホンダとオハイオ州立大学は、入学前から、公立・私立高校の卒業生を対象に、毎年恒例のホンダ・オハイオ州立大学STEMアワードというプログラムで新しい機会を提供しています。また、工学のキャリアに興味のある学生は、COEのホンダ・スカラーシッププログラムに応募することもできます。2005年に設立されたこのプログラムは、近年、オハイオ州立フィッシャービジネスカレッジに入学する学生への奨学金支援にも対象範囲が広がりました。

2019-20年度、ホンダはオハイオ州立大学の1,500人以上の女性や過小評価される傾向のあるマイノリティの学生に資金面やプログラム面での支援を行い、次世代の労働力の多様性に対するコミットメントを明確に示しました(2020年、ホンダ及びオハイオ州立大学)。

また、ホンダ-オハイオ州立大学パートナーシップは、分野、学習方法、学生の特性、および特定の学術プログラムに関係なく、シームレスな学習体験を提供することを目指しています。ホンダとオハイオ州立大学は、高齢者や障がい者向けの将来のモビリティ製品やサービスについて、テスト、レビュー、提言を行う研究を開始しました2。このプロジェクトは、教員、学生、そして地域の人々からなる分野横断的なチームで構成されており、ブランデッド・ストーリーテリングによってデジタルドキュメント化される予定です3。 

20年にわたるコラボレーション、そして未来への道

2020年には、ホンダ-オハイオ州立大学パートナーシップが20周年を迎えました。記念イベントでは、オハイオ州の高等教育、経済、労働力の変革に向けたコラボレーションの影響を振り返る素晴らしい機会となりました。参加者には、オハイオ州立大学のクリスティーナ M. ジョンソン学長、オハイオ州のジョン・ヒューステッド副知事をはじめ、ホンダ、COE、TRC、ワン・コロンバスなどのリーダーたちが名を連ねました。

ホンダは、研究者、学生、自動車産業に有益なプロジェクトを支援するために、合計で6800万ドル以上をオハイオ州立大学に直接投資してきました。過去5年間にホンダが採用した学生を専攻別で見ると、フルタイムおよびインターン/コープで、機械工学が188人、電気・コンピュータ工学が51人、産業・システム工学が51人で上位を占めています。 

また、ホンダは約200名のオハイオ州立大学の学部生をインターンやコープという形で採用し、同時期に約470名のオハイオ州立大学の学部生がプロジェクトベースの授業に参加しています。今後、ホンダとオハイオ州立大学の協力関係が強化されることで、教員の研究革新が促進され、より多くの学生が研究やビジネスの現場を体験できるようになることが期待されます。

ホンダ-オハイオ州立大学パートナーシップの提携20周年を記念するイベントでは、オハイオ州立大学のクリスティーナ M. ジョンソン学長が、提携は、研究、慈善活動、人材育成という重要な分野で両機関に利益をもたらすものであると語りました。両機関を組み合わせたパートナーシップの過去と継続的な成功の主な要因を挙げ、「次の20年がどのようになるか楽しみ」であると告げました(2020年、ブッカー著)


参考文献

Booker, Chris. 2020. “Ohio State, Honda Partnership Marks Two Decades of Success.” Ohio State News, October 15. https://news.osu.edu/ohio-state-honda-partnership-marks-two-decades-of-success/.

Honda and The Ohio State University. 2020. 20 Years of Impact: Honda-Ohio State Partnership Report. https://spark.adobe.com/page/Qxs2UP8FRJayZ/.

The Ohio State University. 2013. “Dapino to be First Honda R&D Americas Designated Chair,” January 7. https://engineering.osu.edu/news/2013/01/dapino-be-first-honda-rd-americas-designated-chair

Transportation Research Center. 2020. “What We Do.” https://www.trcpg.com/what-we-do/