澤崎宏一(静岡県立大学)
杉村美紀(上智大学)
2018年以降、文部科学省は、米国とのバーチャル モビリティとバーチャル エクスチェンジの協力関係を推進する大学間交流プロジェクトへの参加校として、上智大学、お茶の水女子大学、静岡県立大学を選出しています。これら3校の教育機関は、いずれも、共同で、次の10校の米国高等教育機関と提携することに合意しました。ポートランド大学、ゴンザガ大学、ボストンカレッジ、シアトル大学、ヴァサーカレッジ、カリフォルニア大学デービス校、ロヨラ メリーマウント大学、ノースカロライナ大学シャーロット校、マーケット大学、サンフランシスコ大学です。
このプロジェクトのアイデアは、上智大学が、米国の選り抜きの大学と共同でバーチャル モビリティ講座を開発する計画への参加をお茶の水女子大学と静岡県立大学に打診したことが発端になっています。日本の3校は、いずれも、それぞれの大学の強みを活用することから相互に恩恵を受けられることを認識していました。上智大学には評価の高い国際教育プログラムがあり、お茶の水女子大学には優れた高度な日本語学習プログラムがあり、静岡県立大学には国際的に認知されている看護学プログラムがあります。コンソーシアムの共通の目標は、1)教員と学生にグローバルな教育機会を提供すること、2)多面的な学生交流を強化すること、および3)質の高い教育の提供と保険衛生教育の格差の解消という点で国連の持続可能な開発目標に貢献することです。
プロジェクトは(2021年3月現在)まだ進行中ですが、試験的に実施された注目に値するバーチャル モビリティ(VM)プログラムとバーチャル エクスチェンジ(VE)プログラムから前途有望な成果が得られています。例えば、上智大学と静岡県立大学は、ポートランド大学(米国、オレゴン州)およびドルノゴビ医科大学(モンゴル)と共同で「青少年の性教育」と題するオンライン講座を同時に開催しました。この講座には、59名の看護学部の学生と4名の主任教員が参加しました。講座の開始に先立って、参加4大学の教員が共同で、よく構成された講座活動を計画しました。この講座活動には、6週間のピア ラーニングが含まれていました。ピア ラーニングで、学生は、出生率と妊娠中絶率、避妊方法と避妊の費用、性感染症、関連する法律と規制および性教育を含むリプロダクティブ ヘルスの問題に関する議論を積極的にリードしました。教室の外では、学生が、4大学によるバーチャル国際学会の一環として、講座の最後に学生仲間に向けて行う個人的な口頭による発表に取り組みました。
看護学プログラムは、非常に強固な講座スケジュールと厳しい免許要件を課すことが世界中で知られているため、これまで通りの海外留学プログラムに参加できる看護師はほとんどいません。試験的なバーチャル モビリティー看護学講座は、4大学すべての看護学生にとって、異文化の学生仲間と交流する非常に貴重な機会であることが実証されました。4大学すべての看護学生が、講座の最後の自己反省活動の一環として、共同作業の経験に対する高い評価を表明しました。ポートランド大学の学生は、「地理的に異なる場所にいる他の看護学生と重要なトピックについて話す機会を得られたことは本当にありがたいことです」と書いています。別の学生は、次のようにコメントしています。「言葉、地理的な場所、文化の違いはありましたが、私たちは普遍的な『看護学の言語』を通してコミュニケーションをとり、各自が直面している地域の課題を理解することができました。この種の交流は、私たちが自分の思い込みに疑いの目を向け、自国の制度やプロセス、そして他国の制度やプロセスの理解を深めるための豊かな機会になります」。上智大学の学生も同様の意見を述べています。「看護学科で学んでいる私にとって海外留学に時間を割くことは困難です。私と同様の将来への希望を抱いている世界中の看護学生との国際的な交流を体験することが貴重な時間であることがわかりました」。
コンソーシアムの試験プログラムの成功を受けて、4大学すべてが、自校の看護学プログラムへのバーチャル モビリティ講座プログラムの追加導入に向けて引き続き協力していくことに合意しました。さらに、バーチャル モビリティー看護学コンソーシアムは、新たにマーケット大学(米国、ウィスコンシン州)、カリフォルニア大学ロサンゼルス校、ボストンカレッジ(米国、マサチューセッツ州)へと拡大しました。バーチャル モビリティ コンソーシアムは、看護学プログラムの強化に加えて、社会科学内の学際的講座も試験的に実施しています。例えば、ゴンザガ大学(米国、ワシントン州)、上智大学、静岡県立大学、お茶の水女子大学は、共同で、2020年の秋学期に、ジェンダー研究のトピックに焦点を当てたバーチャル モビリティ講座シリーズを実施しました。日本の3校の大学が順番に3つの同時授業を主催しましたが、それらの授業には、日本社会における家族とジェンダー、韓国における家族とジェンダー平等性、アジアにおけるLGBTQという様々なジェンダー研究のテーマに関するオンライン講義が含まれていました。ゴンザガ大学の学生が日本語と日本文化を専攻していたため、授業は日本語で行われました。日本人とアメリカ人両方の学生が、授業中にグループディスカッションを行い、互いの国の文化的状況やアジアの他の国の文化的状況を比較対照する機会もありました。
バーチャル モビリティ講座シリーズの第2段階には、ゴンザガ大学リーダーシップ研究学部の集中講座に参加している日本人の学生が参加しました。この講座では、学生の異文化間コミュニケーション能力とインクルーシブ リーダーシップの育成に重点を置き、内省的自己学習と課外活動も行われました。講座の最後で、アメリカ人と日本人両方の学生がゴンザガ大学リーダーシップ研究学部のインクルーシブ リーダーシップ プログラムに参加しました。このプログラムでは、学生のコミュニケーション、チームワーク、創造性、感情的知性のスキルを強化することに集中しました。このプログラムでは、ワシントン州スポケーンにあるゴンザガ大学のキャンパスとその周辺の講演者、専門家、地域のリーダーを招き、それらの講義から得られた実務的な知見を理論と組み合わせました。
現在のプロジェクトはまだ進行中ですが、将来は日本の3校すべてが米国の提携先大学と協力して、物理的なモビリティの要素も含む、より多くの学際的なバーチャル モビリティ プログラムを開発することを既に考えています。例えば、米国の学生は、日本の提携先大学のキャンパスへの物理的な留学の旅に出る前に、まず日本の提携先大学のキャンパスの学生と共にオンライン講座に参加します。日本に滞在している間、米国の学生は、お茶の水女子大学で上級日本語講座を受講した後、静岡県立大学が主催する日本の企業活動や文化活動を見学するツアーに参加します。さらに、Jesuit Worldwide Learning(JWL)ネットワークへの貢献として、上智大学が米国人と日本人両方の学生を対象に、イエズス会の他の教育機関や政府系および非政府系の国際機関を訪問するミャンマーへの研修旅行を主催します。日米教育機関提携プログラムのこの部分の目的は、日米の学生が他の第三国の教育の発展や格差の問題について共同で学ぶことにより、地球市民になることを同じ条件で学ぶことができる共通のイマージョン体験を提供することにあります。
この日米高等教育の協力関係によって、より多くのエビデンスに基づいた研究が行われ、共同の取り組みが強化されることから、バーチャル エクスチェンジとバーチャル モビリティは成長し続け、日米両国で革新的かつインクルーシブな国際化を向上させることが大いに期待されます。